下肢静脈瘤の予防法
下肢静脈瘤は、必要以上に足に血液がたまる状態が続いてしまい、やがて足の静脈内にある「逆流防止弁の機能不全」が生じることで発症することが多いとされます。
したがって、できるだけ足に血液が溜まらないようにすることが、下肢静脈瘤予防の第一歩となります。
- ① 長時間の立位または座位を避ける
- ② 就寝時に足を上げる
- ③ 弾性ストッキングを着用する
- ④ 適度な運動をする
- ⑤ 規則正しい食生活をする
- ⑥ こまめに水分を補給する
- ⑦ 足をマッサージする
- ⑧ 当クリニックおすすめの「下肢静脈瘤予防体操」
① 長時間の立位または座位を避ける
長時間立ちっぱなし、座りっぱなしでいると、足の筋肉が動かない時間が長くなります。
足の静脈内の血液は足の筋肉が収縮することで循環しやすくなるため、立位や座位が長時間続くと、その収縮が起こらなくなり、足に血液がどんどん溜まっていきます。
そのため、できるだけ足が動かない時間を短くすることが非常に大切です。 立ち仕事の方であれば時々つま先立ちをする、デスクワークや座り仕事の方であれば膝から下をぶらぶらと動かす、といった足の運動を行いましょう。
② 就寝時に足を上げる
普段寝ている姿勢の時は、足の血液の流れに対して重力が垂直方向になるため、立っている時と比較して血液の流れが妨げられることが少なくなります。
したがって、たいていの人は、朝起きた時に足のむくみが改善していることが多いです。
そこで、就寝時に足を心臓の高さより少し高めに保ち(座布団1枚分で構いません)、足の血液がスムーズに流れやすい状態を作り、足に血液が溜まりにくくすることで下肢静脈瘤の予防につながります。
③ 弾性ストッキングを着用する
弾性ストッキングは下肢静脈瘤の予防、または進行予防に効果的です。
普段からストッキングを着用することで、外側から直接足を圧迫し、余計な血液が溜まることを防ぎます。
特に立ち仕事や座り仕事に従事されている方はストッキングを着用することで足が軽くなり、より快適に過ごせるようになります。
稀に、弾性ストッキングが肌に合わずに、痒みや肌荒れを生じる場合もありますが、着用時間を短くしたり、ストッキングのすべり止めの部分が直接肌に触れないようにしたりするなどの工夫によって改善します。
また、長時間乗り物に乗る時などには、弾性ストッキングの着用をぜひお勧めします。
これは、深部静脈血栓症という肺梗塞(エコノミークラス症候群)の原因である血栓症の予防にもなるからです。
特に、出張などで長時間飛行機などに乗る時には、弾性ストッキングを着用しましょう。
④ 適度な運動をする
年齢を重ねていくと、男女を問わず筋肉量が低下していきます。
足の筋肉量が低下していくと、足の筋肉の収縮作用(筋ポンプ作用)が低下し、やがて足の静脈内の血液の流れが常に悪い状態になり、下肢静脈瘤の原因となります。
普段から筋肉量を維持できるよう意識することが大切で、そのためには定期的な運動が必要となります。
歩く距離を長くしたり、プールやジムに通ってトレーニングをしたりするのもよいでしょう。
また、負荷の大きな運動を時々行うより、負荷の小さな運動でもいいので、その運動を定期的に行うことが大切です。
⑤ 規則正しい食生活をする
下肢静脈瘤を予防してくれる食物はありませんが、他の疾患と同様、規則正しい食生活を行って、肥満や高脂血症といった生活習慣病を防ぐことが、下肢静脈瘤を予防する上でも大切です。
特に塩分などを取りすぎてしまうと、余計な水分が体内に溜まりやすくなり、足のむくみの原因となります。
⑥ こまめに水分を補給する
体内の水分が少なくなると、血液がドロドロになり、血栓ができやすい状態になります。
下肢静脈瘤のある方に血栓ができてしまうと、静脈炎などを起こしやすくなるため、注意が必要です。
血液の流れをスムーズにするには、水分補給が重要です。
また、一度に大量の水分を摂るより、こまめに摂取する方が理想的です。
水分といっても、アルコールやカフェイン飲料(コーヒーや紅茶、一部のお茶など)は、飲みすぎると尿量が増える原因となり、逆に体内の水分が必要以上に損なわれることがあるので注意しましょう。
⑦ 足をマッサージする
むくみの改善には足のマッサージも効果的です。
このとき、足の一部ではなく、下から上にかけて全体的にマッサージすることをイメージするとよいでしょう。
ただし、もし痛みを伴う場合はマッサージを無理に行わず、医療機関で診断を受けましょう。
⑧ 当クリニックおすすめの「下肢静脈瘤予防体操」
当クリニックがおすすめする「下肢静脈瘤予防体操」をご紹介します。
足の筋肉をほぐして筋ポンプ作用を増大させ、下肢静脈瘤を予防しましょう!
「足の指グーパー体操」
- 座った状態で、足の指をグーパーと閉じたり開いたりするのを繰り返します。
- 足の指で布をつかむようなイメージで行います。
- 1回の運動につき10回ほどグーパーを繰り返します。
- これを1セットとし、1日5セットほどを目標に行ってみましょう。
お仕事中でもできる簡単な方法なので、適宜行うと良いでしょう。
「バレリーナの足体操」
- 座った状態で、足首の関節の曲げ伸ばしを繰り返します。
- 足の指をすねに近づけるように足首を曲げ、今度は反対に足の指をすねから離すように足首を伸ばします(バレリーナの足の動きをイメージしてください)。
- 1回の運動につき10回ほど曲げ伸ばしを繰り返します。
- この運動を1セットとし、1日5セットほどを目標に行ってみましょう。
これもお仕事中でもできる簡単な方法なので、適宜行うと良いでしょう。
「つま先立ち体操」
- 立った状態で、かかとを上下させる「つま先立ち」を繰り返します。
- 3秒かけて上げ、3秒かけて下げるのを繰り返します。
- 椅子や手すりなど、安定したものに掴まっても構いません。
- 1回の運動につき10回ほど上下を繰り返します。
- この運動を1セットとし、1回3セットほどを目標に行ってみましょう。
かかとを上下することでふくらはぎの筋ポンプ作用が働き、血流が良くなります。
立ち仕事の方は、時々つま先立ち体操を行いましょう。
「寝る前の手足ブラブラ体操」
- 仰向けになり、手足を天井に向けて伸ばします。
- その状態で手足をブラブラと動かします。
- 1回30秒~1分を目安に行いましょう。
こうすることで、重力の助けを得て手足の血液が心臓に戻りやすくなります。
少しでも手足が心臓より高くなっていれば効果が期待できますので、無理のない姿勢で行いましょう。
むくみについて
下肢静脈瘤に関連して「足のむくみ」についてご相談をいただくことがあります。
むくみは、皮膚の下に余分な水分(組織間液やリンパ液など)が溜まった状態です。
人間の身体では、酸素や栄養をたっぷりと含んだ血液が心臓から全身に流れていき、いろんな組織でそれらが消費され、再び心臓に戻ってきます。
その血液が戻る際に通る通り道が静脈と呼ばれる血管なのですが、静脈には、血液を心臓に戻すときに皮膚の下にたまった余分な水分を吸収して、一緒に運ぶ役割もあります。
静脈の水分を吸収するこの機能が何らかの原因で低下したときに、むくみが生じます。 また、リンパ管内のリンパの流れが阻害されたときにも、むくみが生じることがあります。
むくみの原因
① 全身疾患
心臓病や腎臓病、肝臓病、甲状腺などの疾患がある場合、むくみが生じてくることがあります。
これは全身の血液の巡りが悪くなることや、体の水分の吸収機構が阻害されることによって起こります。
② 下肢静脈瘤
下肢静脈瘤がある場合、足の静脈の血流が悪化するので、心臓に血液が戻りにくくなります。
その結果、足に血液が溜まると同時に余分な水分もどんどん溜まっていき、足にむくみが生じます。
③ 外科手術
腹部の手術や婦人科系の手術、整形外科での下肢の手術後にむくみが生じることがあります。
これは手術時のリンパ節の摘出や、術中のリンパ管の損傷により、リンパの流れが阻害されて生じるむくみです。
また、術後しばらくしてから徐々に生じてくることもあります。
④ 生活習慣
立ちっぱなしで仕事をする人や、運動習慣のない人には、むくみが生じやすくなります。
これは、足が動かない時間が長くなると静脈内の血流が悪くなり、皮下の水分が上手く吸収されなくなるためです。
この場合はほとんどが生理的な一過性のものなので、生活習慣の改善によって、むくみの解消が見込めます。
⑤ その他の原因
アルコールや塩分の摂りすぎなど、食生活が原因となる場合があります。
また、内服薬の種類によっては副作用として、むくみが生じることがあります。
むくみの治療
生活習慣や食生活が原因の場合
生活習慣や食生活が原因でむくみが生じている場合は、まずはそれらの改善が必要です。
・同じ姿勢が続かないよう工夫する
立ち仕事やデスクワークでは、時々つま先立ちをしたり、椅子に座っている時でも膝から下をブラブラと動かしたりして、同じ姿勢が続かないようにします。
また、歩行やランニングといった、定期的に足を動かすのを習慣にすることも大切です。
・食生活を改善する
アルコールや塩分の摂りすぎには注意しましょう。
血液の流れをスムーズにするため、むくみの中身である水分も、ある程度は必要です。適度に水分補給をしましょう。
またこの時、水分にカフェインが含まれていると、カフェインによる脱水作用により上手く水分補給ができないことがあるため、カフェインの入っていない水分(水、麦茶、昆布茶、ルイボスティーなど)も適度に摂るようにしましょう。
全身疾患によるむくみの場合
全身疾患によるむくみの場合は、基礎疾患の治療が必要です。
特に体全身にむくみが生じる場合は、何らかの内臓疾患が隠れていることもあります。
早めの診察を心がけましょう。
下肢静脈瘤によるむくみの場合
下肢静脈瘤が原因の場合、これを治療することによって、むくみが明らかに改善することがあります。
弾性ストッキングの着用
弾性ストッキングを日中に着用することで、強制的に足のむくみを抑え込むことができます。
弾性ストッキングは特殊な作りになっているため履き慣れるのに少し時間がかかりますが、慣れてしまえば足が非常に軽くなり、特に立ち仕事の方にはお勧めです。
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監修者情報
大学卒業後は、関東エリアを中心として心臓血管外科医として治療経験を積み、前任地では下肢静脈瘤の治療の専門としてこれまでに7,000例以上の治療実績を持ちます。2020年にさかえ血管外科・循環器クリニックを開業し、「人生を楽しむための下肢静脈瘤治療」をテーマに下肢静脈瘤治療を中心に日帰り外科治療を行なっています。
【資格】
- 日本外科学会認定 外科専門医
- 日本脈管学会認定 脈管専門医
- 日本脈管学会認定 研修指導医
- 下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医
- 弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター