グルー治療(血管内塞栓術)とは?治療内容、他の治療との違い、デメリットやリスクについても解説

グルー治療とは、下肢静脈瘤の治療の1つで正式には血管内塞栓術といいます。グルーとは、日本語で糊(のり)を意味し、逆流を起こしている静脈内に医療用の瞬間接着剤を注入して固め、血液の逆流を止める治療法です。

日本国内においては、2019年12月に保険適用となり、比較的新しい下肢静脈瘤の治療法です。日本国内においても徐々に対応できる施設も増え、症例も増えてきています。最も盛んに行われている欧米圏においては、血管内焼灼術や抜去術に遜色ない治療実績を誇り、今後下肢静脈瘤のスタンダードな治療法として普及していくことが期待されます。

この記事では、グルー治療(血管内塞栓術)の治療内容、他の治療との違いやメリット・デメリット、リスクまで解説します。

監修者情報

記事監修者 さかえ血管外科・循環器クリニック 院長 平本明徳
さかえ血管外科・循環器クリニック
院長 平本 明徳

大学卒業後は、関東エリアを中心として心臓血管外科医として治療経験を積み、前任地では下肢静脈瘤の治療の専門としてこれまでに7,000例以上の治療実績を持ちます。2020年にさかえ血管外科・循環器クリニックを開業し、「人生を楽しむための下肢静脈瘤治療」をテーマに下肢静脈瘤治療を中心に日帰り外科治療を行なっています。

【資格】
・日本外科学会認定 外科専門医
・日本脈管学会認定 脈管専門医
・日本脈管学会認定 研修指導医
・心臓血管外科専門医(2015~2019)
・下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医
・弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター

下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤

下肢静脈瘤は足の血管の病気で、足の静脈がこぶ状に浮き出たり、血管が透けて見える状態です。
見た目以外にも足が疲れやすくかったり、だるさなどの症状を生じます。
下肢静脈瘤は良性の病気ですので、急激に悪化したり、命に関わることはありませんが、自然治癒することはないので生活の質を低下させてしまいます。気になる症状のある方は、血管外科(下肢静脈瘤に対応している医療機関)を受診することをおすすめします。

グルー治療(血管内塞栓術)とは

グルー治療(血管内塞栓術)とは、問題の起きている静脈内にシアノアクリレートという医療用の接着剤を注入し、血管を閉塞させる治療法です。日本では、VenaSeal™(ベナシール)のみ保険適用となり、現在広く普及しています。また、レーザー治療と比較した際に痛みが非常に少なく、神経損傷の合併症リスクがないことが挙げられます。

グルー治療の流れ

  1. カテーテル挿入部位に少量の局所麻酔を行い、カテーテルを挿入します。
  2. 静脈内に医療用接着剤を注入します。
  3. 注入した部位を皮膚の上から圧迫します。
  4. カテーテルを抜き、閉塞を確認します。
  5. 止血を行い、治療終了となります。1肢あたり15分程度となります。

グルー治療と血管内焼灼術の違い

血管内焼灼術では、血管を閉塞させる際に熱を発し、熱に伴う痛みを抑えるために多量の麻酔薬を必要とします。グルー治療は血管を閉塞させる際に熱を発しないため、血管周辺組織や神経への侵襲(ダメージ)を抑えることができます。そのため、TLA麻酔*が不要となり、カテーテルの挿入部位に局所麻酔をするだけで、術中の麻酔量を格段に少なくすることが可能です。

グルー治療では、さらに術後の血栓症リスクが低く、術後の弾性ストッキングの着用が必要ありません。血管内焼灼術では、術式の特性上、術後合併症(深部静脈血栓症)のリスクを軽減するため、手術が終わってからしばらくは弾性ストッキングの着用が不可欠となります。グルー治療では、この工程が不要となりますので、ほとんど制限なしで日常生活への復帰が可能となります。

ただし、決してグルー治療の方が血管内焼灼術より優れているというわけではなく、接着剤に対してアレルギー反応を起こしてしまう方、血管の蛇行が強い方や複雑なタイプの下肢静脈瘤には向いていません。アレルギー反応も多くの場合は時間経過とともに軽減されますが、極度のアレルギー反応を起こす場合には問題となる血管を切除する必要があります。また、接着剤は長期的に体内に残りますので、異物感を感じられる方もいらっしゃいます。こちらも時間経過によって解消されることがほとんどです。

以上のことから、どちらの治療も一長一短であり、医師は患者様個別の症状や下肢静脈瘤のタイプを見極め、適した術式を選択する必要があります。

*TLA麻酔(Tumescent Local Anesthesia):低濃度大量浸潤局所麻酔といい、薄めた局所麻酔液を血管の周辺組織に多めに注射する局所麻酔方法です。

グルー治療のメリット・デメリット

グルー治療のメリット・デメリットについて見ていきましょう。

メリット

  • ほとんど制限なしで日常生活への復帰が可能(入浴など)
  • 局所麻酔のみで治療が可能
  • 深部静脈血栓症、血管周辺組織や神経へのリスクが低い
  • 術後の弾性ストッキングの着用が不要

デメリット

  • アレルギー体質の方には不向き
  • 血管の曲がり具合が強い方や複雑なタイプの下肢静脈瘤には不向き
  • 術後、治療部位に異物感を感じることがある

グルー治療の安全性について-血管内の瞬間接着剤はどうなる?

グルー治療で用いられる医療用接着剤(シアノアクリレート)は、1960年代から医療に応用されており、実は長い歴史を持ちます。また、世界で最も監査が厳しいとされるアメリカのFDA(日本でいう厚生労働省にあたる)から認可が下りており、安全性の観点ではまったく問題ありません。

接着剤は人工物ですので、長期的にそのまま体内に残ります。見た目上はわからず、治療部位を押してみると分かる程度です。ただし、皮下脂肪が少なく足の皮膚表面に近い血管が治療対象となる場合には、固めた接着剤が目立つ可能性がありますので、そのような症例では血管内焼灼術を選択することが多いです。

治療費用

グルー治療(血管内塞栓術)は、保険診療となりますので、医療機関によって費用差はほとんどありません。
また、保険診療となりますので「高額療養費制度*」や「限度額適用認定証*」の対象となります。
また、ご加入されている医療保険によっっては、手術給付金の支払い対象になることがありますので、あらかじめ確認しておきましょう。

3割負担2割負担1割負担
片足の場合約45,000円約30,000円
(上限額:18,000円)
約15,000円
(上限額:18,000円)
両足の場合約89,000円約59,000円
(上限額:18,000円)
約29,500円
(上限額:18,000円)

*高額療養費制度
日本国内においては、高額になった医療費が生活を圧迫しないように、医療機関や薬局での窓口で支払う医療費が1ヶ月(1日から末日まで)で上限を超えた場合に、超えた分が支給される制度です。上限額は、年齢や所得に応じて定めらています。

*限度額適用認定証
高額療養費制度では、後から払い戻しを受けられますが、一時的に自己負担しなければいけません。
医療費が高額になりそうなときは、あらかじめ限度額適用認定証を取得し、窓口で保険証と併せて提示することによって窓口でのお支払いが自己負担限度額までとなります。

どちらの制度を用いても、合計でお支払いする費用は変わりません。
詳しくは下記サイトをご覧ください。

高額療養費制度について
限度額適用認定証について

まとめ

ここまでのところでグルー治療(血管内塞栓術)の治療内容から他の治療との違い、メリット・デメリット、安全性、費用について解説してきました。グルー治療は、比較的新しい治療法ですが、欧米圏を中心に既に良好な治療実績を持ち、国内でも代表的な下肢静脈瘤治療の1つになりつつあります。
どの治療にも言えることですが、それぞれの治療にメリット・デメリットがありますのでそれらを踏まえ、ご自身に合った治療を選択していく必要があります。当院では、現時点における下肢静脈瘤のすべての治療法に対応できますので、気になる症状のある方はお気軽にご相談ください。